「せっかく遺言書を書いたのに、無効になってしまった」——そんなトラブルが後を絶ちません。遺言書は故人の最後の意思を伝える大切な書類ですが、法律で定められた要件を満たしていないと無効になってしまうことがあります。
相続の場面で遺言書の有効性が争われるケースは、家庭裁判所でも毎年多くの件数が取り扱われています。遺言書が無効になれば、相続人同士で遺産分割協議をやり直す必要があり、時間もお金も精神的な負担もかかります。
この記事では、遺言書が無効になる代表的な7つのケースと、無効を防ぐための対策について詳しく解説します。

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遺言書の種類と基本的なルール
遺言書が無効になるケースを理解するために、まずは遺言書の種類と基本ルールを押さえておきましょう。遺言書には主に3つの種類があります。
自筆証書遺言
遺言者が自分の手で全文を書き、日付と署名・押印をする遺言です。費用がかからず手軽に作れる反面、形式不備で無効になりやすいのが特徴です。なお、民法改正により財産目録についてはパソコンで作成することも認められています。
公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。公証人が法律の要件を確認して作成するため、形式面での無効リスクはほぼありません。証人2人が必要で、公証人手数料もかかります。
秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、その存在だけを公証人に証明してもらう遺言です。実際にはほとんど使われていません。
無効になりにくさで比較すると、公正証書遺言が最も安全です。自筆証書遺言は手軽ですが、形式面の不備が多く、トラブルの原因になりやすい傾向があります。
【ケース1】日付の記載に不備がある
自筆証書遺言では、遺言を作成した年月日を正確に記載することが法律で義務付けられています(民法968条)。日付を特定できない書き方をしてしまうと、遺言書は無効になります。
無効になる日付の書き方の例
- 「令和8年5月吉日」→ 日付を特定できないためNG
- 「令和8年春」→ 時期が曖昧すぎてNG
- 「2026年」→ 月日が抜けているためNG
- 日付の記載そのものがない → 当然NG
有効な日付の書き方
- 「令和8年9月9日」→ 年月日が特定できるのでOK
- 「2026年9月9日」→ 西暦でもOK
- 「私の80歳の誕生日」→ 日付が特定できるため有効とされた判例あり
最高裁判例(昭和54年5月31日)では「吉日」の記載について、日付の特定ができないため無効と判断されています。遺言書を書く際は必ず年月日を正確に記しましょう。

【ケース2】自筆でない部分がある
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を手書きする必要があります。パソコンで本文を作成したり、他人に代筆してもらったりした場合は無効です。
ただし、民法改正(2019年1月施行)により、財産目録についてはパソコンでの作成が認められるようになりました。この場合も、財産目録の各ページに署名・押印が必要です。
無効になるパターン
- 本文をワープロやパソコンで打ち出したもの
- 家族や友人が代わりに書いたもの
- 録音・録画のみで書面がないもの
有効なパターン
- 本文は全て手書きで、財産目録のみパソコン作成(各ページに署名押印あり)
- 銀行の通帳コピーを財産目録として添付(各ページに署名押印あり)
【ケース3】署名・押印がない
自筆証書遺言には、遺言者本人の署名と押印が必要です(民法968条1項)。どちらか一方でも欠けていると無効になります。
押印については、実印でなくても認印で構いません。拇印(指による押印)でも有効とされた判例があります(最高裁平成元年2月16日判決)。ただし、トラブルを避けるためには実印の使用が望ましいとされています。
署名については、戸籍上の氏名が望ましいですが、通称名やペンネームでも、本人と特定できれば有効とされています。
【ケース4】遺言能力がなかった
遺言書を作成するには、遺言の内容を理解し、その結果を認識できる能力(遺言能力)が必要です。民法では、15歳以上であれば遺言をすることができると定めています(民法961条)。
しかし、年齢の要件を満たしていても、遺言作成時に判断能力が著しく低下していた場合には、遺言能力がなかったとして無効になることがあります。
遺言能力が問題になりやすいケース
- 重度の認知症が進行していた状態での作成
- 意識障害や精神疾患の影響下での作成
- 強い薬の影響で判断力が低下していた状態での作成
遺言能力の有無は、遺言作成時点での状態が基準になります。認知症と診断されていても、作成時に判断能力があったと認められれば有効です。逆に、普段は元気でも、作成時に一時的に判断能力が低下していれば無効になる可能性があります。

【ケース5】詐欺・強迫によって書かされた
遺言者が騙されたり脅されたりして書いた遺言書は、取り消すことができます(民法96条)。相続人の一人が親に対して「遺言書を書かないと面倒を見ない」などと脅して書かせたケースなどが該当します。
詐欺・強迫が認められやすい状況
- 特定の相続人だけが遺言者と二人きりで遺言書を作成させた
- 他の相続人に知らせず、密室で遺言書を書かせた
- 遺言者の体調が悪い時期を狙って作成を迫った
- 虚偽の事実を告げて遺言内容を誘導した
ただし、詐欺や強迫の立証は容易ではありません。証拠が乏しければ、たとえ疑わしい状況があっても認められないケースもあります。
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【ケース6】共同遺言である
民法では2人以上の者が同一の証書でする遺言(共同遺言)を禁止しています(民法975条)。夫婦が連名で1通の遺言書を作成した場合、その遺言書は無効になります。
なぜ共同遺言は禁止されているのか
- 遺言の自由な撤回が妨げられる
- 一方の遺言者が亡くなった後、もう一方が撤回できなくなる
- お互いの意思が独立して反映されない可能性がある
夫婦で遺言を残したい場合は、それぞれ別の用紙で1通ずつ作成する必要があります。内容を揃えたい場合でも、別々の遺言書にしましょう。

【ケース7】遺言の内容が不明確
遺言の文言が曖昧で、遺言者の意思を合理的に解釈できない場合も無効になることがあります。
問題になりやすい書き方
- 「全財産を適当に分けてほしい」→ 具体的な分配方法がわからない
- 「長男に多めに」→ 「多め」の基準が不明
- 「面倒を見てくれた人に」→ 該当者を特定できない
- 財産の特定が不十分(「家」とだけ記載し、どの不動産か不明)
明確な遺言の書き方
- 相続人は戸籍上の正式な氏名で記載する
- 不動産は登記簿の表示で特定する(所在・地番・家屋番号)
- 預貯金は銀行名・支店名・口座番号で特定する
- 割合で指定する場合も「3分の1」など明確に書く
遺言書の無効を防ぐための対策
ここまで7つの無効パターンを見てきましたが、これらを防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか。具体的な対策を紹介します。
対策1:公正証書遺言を選ぶ
形式面での無効リスクを限りなく低くしたいなら、公正証書遺言の作成がおすすめです。公証人が法律の要件を確認しながら作成するため、日付・署名・押印などの形式不備が生じません。
公証人手数料は財産の額に応じて変わりますが、遺言加算(1億円以下の場合13,000円)を含めて数万円程度からです。遺言の安全性を考えれば十分に価値のある費用といえます。
対策2:専門家に相談する
遺言書の作成にあたっては、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。費用は弁護士で10万~30万円程度、行政書士で5万~15万円程度が相場です。
対策3:法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する
2020年7月からスタートした自筆証書遺言書保管制度を活用すると、法務局で遺言書の形式面をチェックしてもらえます。保管手数料は1件3,900円です。紛失や改ざんのリスクも防げるため、自筆証書遺言を選ぶ場合にはぜひ検討してみてください。
対策4:元気なうちに作成する
遺言能力が問題にならないよう、判断力がしっかりしているうちに遺言書を作成しましょう。高齢になってからの作成では、遺言能力を巡る争いが起きやすくなります。公正証書遺言の場合、作成時の様子が公証人によって記録されるため、遺言能力の証拠にもなります。
対策5:定期的に見直す
一度書いた遺言書も、家族構成や財産状況の変化に応じて定期的な見直しが大切です。新しい遺言書を作成すれば、古い遺言書の内容と抵触する部分は自動的に撤回されたものとみなされます。

遺言書が無効だと判明したらどうする?
もし手元の遺言書が無効だとわかった場合、次のような対応が考えられます。
遺産分割協議を行う
遺言書が無効の場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を話し合います。全員の合意が必要で、一人でも反対すれば成立しません。
遺言無効確認の訴えを起こす
遺言の有効性について相続人間で意見が分かれる場合、家庭裁判所に遺言無効確認の調停を申し立てることができます。調停で解決しない場合は、訴訟に移行します。
弁護士に相談する
遺言の有効性は法律の専門知識が必要な問題です。少しでも疑問がある場合は、相続に詳しい弁護士への相談をおすすめします。初回相談無料の事務所も多くあります。
よくある質問(Q&A)
Q. 遺言書に押印がなくても有効になるケースはありますか?
自筆証書遺言では押印が必須です。押印がないものは原則として無効になります。ただし、拇印(指印)でも有効と認められた最高裁判例(平成元年2月16日)がありますので、印鑑が手元になかった場合でも拇印で対応できる可能性はあります。
Q. 認知症でも遺言書は書けますか?
認知症と診断されていても、遺言作成時に遺言の内容を理解できる判断能力があれば有効です。ただし、後日争いになりやすいため、公正証書遺言を利用し、作成時に医師の診断書を取得しておくなどの対策が望ましいです。
Q. 遺言書を作り直すことはできますか?
遺言書はいつでも何度でも作り直すことができます。新しい遺言書を作成した場合、前の遺言と内容が矛盾する部分については、新しい遺言の内容が優先されます(民法1023条)。
Q. 自筆証書遺言書保管制度を使えば、内容の有効性も保証されますか?
法務局の保管制度は、形式面のチェック(全文自筆か、日付・署名・押印があるか等)は行いますが、遺言の内容が法律的に有効かどうかまでは保証しません。内容の適切さを確認したい場合は、別途専門家に相談する必要があります。
まとめ
遺言書が無効になるケースは、日付の不備・自筆でない部分がある・署名押印がない・遺言能力がない・詐欺強迫による作成・共同遺言・内容が不明確の7つに大別されます。
これらのトラブルを防ぐ最も確実な方法は、公正証書遺言を選び、専門家のサポートを受けることです。費用はかかりますが、残された家族が安心して相続手続きを進められるようにするための大切な準備です。
遺言書の作成を検討している方は、まずはお近くの公証役場や弁護士・行政書士に相談してみてはいかがでしょうか。多くの専門家が初回無料相談を実施しています。
参考リンク:日本公証人連合会 – 手数料 | 裁判所 – 遺言書の検認 | 法務省 – 自筆証書遺言書保管制度
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