「一度作った遺言書を書き直したい」「状況が変わったので内容を変更したい」と考える方は少なくありません。結論から言うと、遺言書はいつでも撤回・変更が可能です。
民法1022条では、遺言者はいつでも遺言の方式に従って、遺言の全部または一部を撤回できると定めています。さらに、遺言者が撤回権を放棄することはできないとされており(民法1026条)、遺言書に「この遺言は撤回しない」と書いても法的効力はありません。
この記事では、遺言書の撤回・変更の具体的な方法と条件、種類ごとの手続きの違い、注意すべきポイントを詳しく解説していきます。

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遺言書の撤回・変更が認められる条件
遺言書の撤回・変更に、特別な条件はほとんどありません。
撤回できる条件
- 遺言者本人が行うこと(代理人による撤回は不可)
- 遺言者に遺言能力があること(15歳以上で、意思能力があること)
- 遺言の方式に従って行うこと
上記の条件を満たしていれば、理由を問わず、いつでも何度でも遺言書を撤回・変更できます。配偶者や相続人の同意も不要です。
撤回権は放棄できない
遺言者は撤回権を放棄することができません(民法1026条)。つまり、遺言書の中に「この遺言は今後一切変更しない」「撤回権を放棄する」などと記載しても、その部分は法的に無効です。これは遺言者の最終意思を尊重するための重要なルールです。
遺言書の撤回・変更の4つの方法
遺言書を撤回・変更する方法は、主に4つあります。
方法1:新しい遺言書を作成する(もっとも一般的)
もっとも確実で一般的な方法は、新しい遺言書を作成して前の遺言書を撤回することです。新しい遺言書には「遺言者は、これまでに作成した遺言の全部を撤回する」という一文を入れておくと明確になります。
民法1023条により、前の遺言と後の遺言の内容が抵触する場合は、抵触する部分について後の遺言が優先されます。ただし、部分的な変更のみだと、どの部分が抵触するのかの解釈で争いが生じるリスクがあるため、全面的に書き直して「過去の遺言はすべて撤回する」と明記するのがベストです。
自筆で書き直す場合は、遺言書用の便箋や封筒、記入例がセットになったキットを使うと準備がしやすくなります。自筆証書遺言は形式の要件があるため、不安なときは専門家や法務局の保管制度も確認してください。
方法2:遺言書を物理的に破棄する
自筆証書遺言の場合、遺言者本人が故意に遺言書を破り捨てたり、焼却したりすると、撤回したものとみなされます(民法1024条)。
公正証書遺言の場合は、手元にある正本・謄本を破棄しても、原本は公証役場に保管されているため撤回にはなりません。公正証書遺言を撤回するには、新たな遺言書で撤回する方法を取る必要があります。
方法3:遺言に反する生前処分を行う
遺言で「自宅は長男に相続させる」と書いていたが、その後自宅を売却した場合、遺言のうちその部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。遺言後の行為が遺言の内容と抵触する場合も、同様に撤回とみなされます。
方法4:遺言の目的物を故意に破棄する
遺言で特定の物を遺贈すると記載していた場合に、遺言者が故意にその物を破壊・処分すると、その部分について遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。

遺言書の種類別:撤回・変更の手続き
自筆証書遺言の撤回・変更
自筆証書遺言の場合、撤回は比較的簡単です。
- 新しい自筆証書遺言を作成する:新たに全文を自書し、日付・署名・押印をすれば完了
- 物理的に破棄する:遺言書を破り捨てる、焼却する等で撤回とみなされる
- 一部を修正する:変更箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印する(民法968条3項)。ただし、方式が厳格なので書き直しのほうが安全
法務局の保管制度を利用している場合は、法務局に撤回の申請を行う必要があります。保管の申請の撤回手続きには費用はかかりません。
公正証書遺言の撤回・変更
公正証書遺言の撤回は、以下の方法で行います。
- 新しい公正証書遺言を作成する:前の遺言を撤回する旨を記載した新しい公正証書遺言を作成する。再度手数料がかかる
- 自筆証書遺言で撤回する:公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも法的に可能。ただし、自筆証書遺言のほうが方式不備のリスクがあるため、公正証書で作り直すのがベター
公正証書遺言は手元の正本・謄本を破棄しても原本が公証役場に残るため、「破棄による撤回」は使えない点に注意が必要です。
撤回の方式の自由
重要なポイントとして、遺言の撤回は前の遺言書と異なる方式でも行えます。たとえば、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも、自筆証書遺言を公正証書遺言で撤回することも可能です。

遺言書を変更すべきタイミング
以下のようなライフイベントがあったときは、遺言書の見直しを検討しましょう。
- 相続人の構成が変わったとき(子どもの誕生、配偶者の死亡、離婚など)
- 財産の内容が大きく変わったとき(不動産の売却・購入、大きな預金の増減)
- 遺言で指定した受遺者が先に亡くなったとき
- 遺言執行者に指定した人が亡くなった、または引き受けられなくなったとき
- 家族関係に変化があったとき(介護の負担分配の変更など)
- 法律が改正されたとき
定期的に見直すことで、常に自分の最新の意思が反映された遺言書を維持できます。年に1回程度の見直しが理想的です。
遺言書の撤回・変更でよくあるトラブルと対策
トラブル1:古い遺言書が残っていて混乱する
新しい遺言書を作成しても、古い遺言書が残っていると、相続人が混乱したり争いの原因になったりします。自筆証書遺言の場合は、古い遺言書を破棄し、新しい遺言書に「過去の遺言はすべて撤回する」と明記しておきましょう。
トラブル2:自筆証書遺言の修正方法が不適切で無効になる
自筆証書遺言を一部修正する場合、民法968条3項に定められた厳格な方式に従う必要があります。修正液で消す、二重線だけ引くといった方法では、修正部分が無効になるリスクがあります。部分修正よりも全面的な書き直しをおすすめします。
書き直す前に、日付・署名・押印などの要件を本で確認しておくと、形式の不備を防ぎやすくなります。
トラブル3:認知症発症後に変更された遺言の有効性が争われる
認知症が進行した状態で遺言を変更すると、「遺言能力がなかった」として変更後の遺言が無効とされるリスクがあります。判断力がしっかりしているうちに遺言書を整備しておくことが何より大切です。

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よくある質問(Q&A)
Q. 遺言書の変更に回数の制限はありますか?
ありません。何度でも自由に変更できます。最終的に日付が一番新しい遺言書が有効となります(抵触する部分がある場合)。
Q. 複数の遺言書が見つかった場合、どれが有効ですか?
日付の新しいものが優先されます。ただし、内容が矛盾しない部分については、古い遺言書の該当部分も有効です。そのため、新しい遺言書には「過去のすべての遺言を撤回する」と明記しておくと混乱を防げます。
Q. 遺言書の撤回だけ行い、新しい遺言書を作らないことはできますか?
はい、可能です。撤回のみを行う遺言書を作成する(「○年○月○日作成の遺言書を撤回する」とだけ書いた遺言書)ことで、古い遺言書を無効にできます。この場合、遺言書がない状態になるため、相続は法定相続分に従って行われます。
遺言書の撤回・変更にかかる費用
遺言書の撤回や変更にかかる費用は、遺言の種類によって異なります。
自筆証書遺言の場合
新しい自筆証書遺言を自分で書き直す場合は、費用はかかりません。法務局の保管制度を利用している場合は、保管申請の撤回手続きに費用はかかりませんが、新しい遺言書を改めて保管する場合は保管手数料3,900円が必要です。
公正証書遺言の場合
新しい公正証書遺言を作成する場合は、改めて公証人手数料が発生します。手数料は遺産額と相続人の人数によって異なりますが、遺産が数千万円規模であれば5~10万円程度が目安です。弁護士や司法書士に作成サポートを依頼する場合は、その報酬も別途必要になります。
費用を抑えるコツ
- 軽微な変更であれば、自筆証書遺言で撤回・変更するのがコスト面で有利
- 大きな変更や複雑な遺言の場合は、公正証書遺言で作り直すのが安全
- 証人は自分で用意すると、公証役場での証人手配費用を節約できる

遺言書の保管場所と管理のポイント
遺言書を変更するたびに、保管場所と管理方法にも注意が必要です。
古い遺言書の処分
新しい遺言書を作成したら、古い遺言書は確実に処分しましょう。特に自筆証書遺言の場合、古い遺言書が残っていると、相続発生後に複数の遺言書が発見されて混乱の原因になります。シュレッダーにかける、焼却するなど、復元不能な方法で処分するのが望ましいです。
新しい遺言書の保管場所を家族に伝える
遺言書を作り直したことと、新しい遺言書の保管場所を、信頼できる家族や遺言執行者に伝えておきましょう。せっかく新しい遺言書を作っても、発見されなければ意味がありません。
遺言書の履歴を記録しておく
何度か遺言書を作り直す場合は、「いつ、どの方式で、どのような内容の遺言書を作成したか」の履歴をエンディングノートなどに記録しておくと、万が一複数の遺言書が見つかった場合でも、最新のものを特定しやすくなります。
まとめ
遺言書の撤回・変更は、遺言者の権利として法律で保障されています。
- 遺言書はいつでも何度でも撤回・変更が可能
- もっとも確実な方法は、新しい遺言書を作成して全面的に書き直すこと
- 公正証書遺言の場合、手元の正本を破棄しても原本は残るため、新しい遺言書での撤回が必要
- ライフイベントに合わせて定期的に見直すことが重要
「一度書いたら変えられない」という誤解から遺言書の作成をためらう方もいますが、実際にはいつでも変更できます。まずは現時点での意思を遺言書に残しておき、状況が変わったら適宜見直していくという姿勢が大切です。
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参考リンク:行政書士法人トゥモローズ「遺言書を作り直す方法」|いい相続「遺言書の撤回・変更方法」|相続の窓口「遺言の撤回・変更」
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