「手書きの遺言は面倒だし、ビデオで気持ちを残せばいいのでは?」と考える方が増えています。スマホやパソコンで簡単に動画を撮影できる時代、映像で遺志を伝えたいと思うのは自然なことかもしれません。
しかし、現行の民法ではビデオ遺言に法的効力は認められていません。一方で、2026年6月にはデジタル技術を活用した新しい遺言制度(保管証書遺言)の創設を含む民法改正が成立し、状況が変わりつつあります。
この記事では、ビデオ遺言の法的効力の現状、新しいデジタル遺言制度の内容、ビデオを活用する際の注意点について詳しく解説します。

現行法でのビデオ遺言の扱い
日本の民法では、遺言の方式として以下の種類が認められています。
普通方式の遺言
- 自筆証書遺言:遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印する(財産目録はパソコン作成可)
- 公正証書遺言:公証人の前で内容を口述し、公証人が筆記する。証人2名が必要
- 秘密証書遺言:遺言者が署名・押印した文書を封印し、公証人と証人2名の前で提出する
いずれの方式も書面であることが前提となっており、ビデオや音声のみの遺言は有効な遺言として認められません。たとえ本人の映像と声であっても、法的な遺言としての効力はないのが現状です。
このルールは1896年(明治29年)の民法制定以来の基本原則であり、遺言という重要な法律行為の慎重性と確実性を担保するために設けられたものです。
書面で遺言を残す準備として、清書用の用紙や封筒がそろった遺言書キットを用意しておく方もいます。ただし、キットを使えば有効になるわけではありません。自筆証書遺言には形式の要件があるため、不安なときは専門家や法務局の保管制度も確認してください。
ビデオ遺言が無効とされる理由
- 民法は遺言の方式を厳格に定めており、書面以外の形式は認められていない(方式の厳格性)
- 映像は編集や改ざんが可能であるため、真正性の担保が難しい
- 遺言は重要な法律行為であり、慎重な判断を促すために「書く」という行為が求められている
- 日付や氏名の確認が書面に比べて曖昧になりやすい
過去の裁判例でも、録音テープに録音された遺言やビデオメッセージは、法的な遺言としては認められていません。

2026年の民法改正で何が変わる?
2026年6月17日に成立した「民法等の一部を改正する法律」により、デジタル技術を活用した新しい遺言制度が創設されることになりました。この改正は、2026年6月24日に公布されています。
保管証書遺言(デジタル遺言)の概要
新たに設けられる「保管証書遺言」は、従来の自筆証書遺言と公正証書遺言に加わる、第3の遺言方式です。
- 作成方法:パソコンやスマートフォンで全文を作成し、電子署名を行う
- 保管先:法務局(遺言書保管所)に保管を申請する
- 口述確認:遺言書保管官の前で遺言の全文を口述する(対面またはウェブ会議)
- 検認不要:法務局に保管されるため、家庭裁判所での検認手続きが不要
- 施行時期:公布日(2026年6月24日)から3年以内に施行予定
つまり、手書きではなくパソコンやスマホで本文を作成できるようになりますが、単にビデオで話すだけでは遺言として認められない点は変わりません。テキストの作成と法務局での手続きが必要です。
保管証書遺言の大きなメリットは、手書きが困難な高齢者や障がいのある方でも、デジタル機器を使って遺言を作成できるようになることです。
特別方式の遺言にもデジタル対応
今回の法改正では、死亡危急時遺言や船舶遭難者遺言といった特別方式の遺言についても、録音・録画やビデオ通話を活用した作成方法が追加されます。
たとえば、命に危険が迫った状況で、証人の前でビデオ通話を通じて遺言を作成するといった方法が法的に認められるようになります。ただし、これはあくまで緊急時の特別な方式であり、通常の遺言をビデオで作成できるわけではありません。
公正証書遺言のオンライン化
さらに、公正証書遺言の作成手続きについても、ウェブ会議を活用した口授や、電子署名による署名・押印の代替が認められるようになります。これにより、公証役場に直接出向くことが難しい方でも、公正証書遺言を作成しやすくなります。

ビデオを遺言の「補助」として活用する方法
ビデオ遺言に法的効力はありませんが、正式な遺言書を補完する資料として活用する方法はあります。
活用例1:遺言の趣旨を説明する映像
「なぜこのような分配にしたのか」「特定の相続人に多く残す理由は何か」といった、遺言の背景にある思いを映像で残しておくことで、相続人間の理解を促進し、トラブルの予防に役立ちます。
特に、遺留分を侵害する内容の遺言を残す場合、本人の映像による説明があると、遺言の有効性が争われた際にも本人の真意を示す証拠として役立つ場合があります。
活用例2:エンディングメッセージ
家族への感謝の気持ちや、生前伝えきれなかった思いを映像で残すことは、法律とは別に大きな意味があります。葬儀やお別れの会で流す方もいます。孫や曾孫など、直接会ったことのない将来の世代へのメッセージとして残す方もいます。
スマホで撮影する場合は、三脚で固定すると手ブレを気にせず落ち着いて話せます。
活用例3:遺言作成時の判断能力の証拠
遺言書の有効性が争われた場合、「作成時に本人に判断能力があったか」が問題になることがあります。遺言を書く前後にビデオを撮影しておくことで、本人の意思能力を裏付ける証拠になり得ます。
弁護士の中には、高齢者の遺言作成時にビデオ撮影を推奨している方もいます。認知症の疑いがある場合は特に有効な方法です。
ビデオ活用のポイント
- 正式な遺言書とセットで残す(ビデオだけでは不十分)
- 撮影日時がわかるようにする(日時を口頭で述べるとよい)
- 本人の顔・声がはっきり映るようにする
- 遺言書の内容と矛盾しないようにする
- 保管場所を信頼できる家族に伝えておく
撮影した動画はスマホの中だけに置いておくと、機種変更や故障で見られなくなることがあります。USBメモリなどにコピーを取り、遺言書と一緒に保管場所を伝えておくと安心です。

遺言の種類別・メリットとデメリットの比較
| 方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 費用がかからない、いつでも書ける | 書式不備で無効になるリスクあり、検認が必要(法務局保管制度利用時は不要) |
| 公正証書遺言 | 公証人が関与するため確実性が高い、検認不要 | 費用がかかる(財産額に応じて数万円〜)、証人2名が必要 |
| 保管証書遺言(新制度) | パソコンで作成可能、法務局保管で安全、検認不要 | 施行はまだ先(2029年頃まで) |
| ビデオ遺言 | 気持ちが直接伝わる、作成が簡単 | 法的効力なし |
デジタル遺言の今後の展望
保管証書遺言の施行により、遺言作成のデジタル化は大きく前進します。今後は、さらなるデジタル化として以下のような動きが期待されています。
- 遺言書の閲覧・検索のオンライン対応
- 公正証書遺言の作成手続きの完全オンライン化
- 電子署名技術の活用による本人確認の高度化
- ブロックチェーン技術を活用した遺言書の改ざん防止
ただし、遺言は人の財産処分に関する重要な法律行為です。技術的に可能であっても、法的な安全性とのバランスを取りながら、慎重に制度が整備されていくことが見込まれます。
保管証書遺言制度は2026年6月に成立しましたが、施行日は公布日から3年以内と定められており、具体的な施行日は未定です。施行されるまでは、従来の自筆証書遺言または公正証書遺言で遺言を作成する必要があります。
Q&Aコーナー
Q. スマホアプリで作った遺言は有効?
A. 現行法では無効です。遺言アプリやデジタルエンディングノートは気持ちを整理するツールとしては便利ですが、法的な遺言としての効力はありません。保管証書遺言制度の施行後は、法務局への保管申請を行うことで法的に有効な遺言を作成できるようになります。
Q. 海外ではビデオ遺言は認められている?
A. 国によって扱いは異なります。一部の州(米国のネバダ州やインディアナ州など)ではビデオを含む電子遺言を認めている例がありますが、多くの国では書面の遺言が基本です。
Q. 遺言の内容をSNSに公開してもいい?
A. 法的にはSNSでの公開を禁止する規定はありませんが、遺言の内容を不特定多数に公開することで、相続人間のトラブルや個人情報の問題が生じるリスクがあります。おすすめはしません。
Q. 現時点で一番確実な遺言の方法は?
A. 公正証書遺言が最も確実です。公証人が関与するため書式不備のリスクが低く、原本は公証役場で保管されるため紛失の心配もありません。費用は財産額に応じて変わりますが、一般的な内容であれば3万円〜10万円程度です。
どの方式で遺言を残すか迷っている方は、遺言書の書き方を解説した書籍で方式ごとの違いを一度確認しておくと判断しやすくなります。

遺言や家族へのメッセージを準備するときに、お墓の希望もあわせて考える方は少なくありません。お墓を新しく建てる場合に費用を比べたいときは、墓石ナビのように複数の石材店から見積もりを取り寄せられるサービスもあります。見積もりは無料で契約の義務はないと案内されています。詳しい内容は公式サイトで確認できます。

まとめ
現行法ではビデオ遺言に法的効力はなく、遺言は書面で作成する必要があります。しかし、2026年6月に成立した民法改正により、パソコンやスマホでテキストを作成して法務局に保管する「保管証書遺言」制度が創設されました。施行は公布から3年以内の予定です。
ビデオは法的な遺言としては使えませんが、正式な遺言書を補完する資料として、気持ちを伝えたり判断能力の証拠として活用したりすることは可能です。新制度が始まるまでは、自筆証書遺言か公正証書遺言で確実に遺志を残しておきましょう。
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