「うちは仲がいいから大丈夫」と思っていても、いざ相続の場面になると兄弟姉妹の関係がこじれてしまうケースは決して珍しくありません。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の約3割は、遺産総額が1,000万円以下のケースだというデータもあり、「遺産が少ないからトラブルにならない」とは限らないのが現実です。
この記事では、兄弟間の相続で起こりやすいトラブルのパターンと、揉めないための事前準備、万が一トラブルになった場合の解決策を解説します。

兄弟間の相続で起こりやすいトラブル6選
1. 遺産の分け方で意見が合わない
法定相続分では兄弟は均等に分配されますが、「長男だから多くもらうべき」「介護をしたのだから自分の取り分が多いはず」といった主張が出ると、話がまとまらなくなります。特に明確な遺言書がない場合に、この問題が発生しやすいです。
2. 不動産が遺産の大部分を占める
実家の土地や建物が遺産の中心だった場合、現金のように簡単に分割できません。「売却して分ける」のか「誰かが住み続ける」のかで意見が対立しがちです。住んでいる兄弟は売りたくない一方で、他の兄弟は現金化して分けたいと考えるケースが典型的です。
3. 生前の贈与や援助の差
親から特定の子どもに生前贈与(住宅資金の援助、事業の資金援助、結婚費用など)があった場合、他の兄弟が「不公平だ」と感じてトラブルになります。法的には「特別受益」として相続分の調整対象になりますが、証拠がなかったり金額の評価が難しかったりして揉めやすいポイントです。
4. 介護の負担が偏っている
親の介護を主に担っていた兄弟が「自分は他の兄弟より多く受け取るべきだ」と主張するケースです。法的には「寄与分」として考慮される場合がありますが、介護の貢献度を客観的に評価するのは難しく、感情的な対立に発展しがちです。
介護をしている側は、日々の介護内容や通院の付き添い、立て替えた費用などを記録しておくと、兄弟で話し合うときの材料になります。寄与分が認められるかどうかは個別の事情によりますが、記録がないと説明すること自体が難しくなります。
5. 音信不通の兄弟がいる
長年連絡を取っていない兄弟がいる場合、遺産分割協議の呼びかけ自体が困難です。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要なため、一人でも参加しない・連絡が取れない場合は手続きが進められません。
6. 異母兄弟・異父兄弟がいる
被相続人に前妻・前夫との間に子どもがいた場合、面識のない兄弟との遺産分割協議が必要になります。法律上は同じ「子」として相続権があるため、感情面の複雑さに加えて手続き面でも難航しやすいパターンです。

相続トラブルを防ぐための事前準備
1. 遺言書を作成する
相続トラブルを防ぐ手段としてもっとも効果的なのが遺言書の作成です。遺言書があれば、原則として遺言書の内容に従って遺産が分配されるため、兄弟間の話し合いで揉める余地が大幅に減ります。
遺言書には主に3つの種類があります。
| 種類 | 特徴 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 自分で書く。費用がかからないが形式不備で無効になるリスクあり | 0円(法務局保管制度利用時は3,900円) |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成。偽造・紛失リスクがなく確実性が高い | 数万〜10万円程度 |
| 秘密証書遺言 | 内容は秘密にできるが、実務ではほとんど使われない | 11,000円〜 |
実務的には、公正証書遺言が安全性と確実性の面でおすすめです。費用はかかりますが、形式不備による無効のリスクがなく、原本が公証役場に保管されるため紛失の心配もありません。
どの方式を選ぶにしても、公証役場や専門家に相談する前に、遺言書の基本的な書き方や注意点を本で押さえておくと、話がスムーズに進みます。
2. 財産目録を作成する
遺産にどのような財産があるかが分からないと、分割の話し合いも進みません。財産目録を作成しておけば、相続人全員が遺産の全体像を把握でき、手続きもスムーズに進みます。
財産目録に含めるべき項目は以下の通りです。
- 預貯金(金融機関名・支店名・口座番号・残高)
- 不動産(所在地・面積・評価額)
- 有価証券(証券会社名・銘柄・数量)
- 生命保険(保険会社名・契約内容・受取人)
- 負債(借入金・ローン・保証債務)
- デジタル資産(ネット銀行、暗号資産など)
財産の一覧は、資産の記入欄が用意されたエンディングノートを使うと書き出しやすくなります。ただし、エンディングノートには法的効力はないため、分け方の指定は遺言書で残しておきましょう。
3. 家族で事前に話し合う
相続のことを家族で話し合うのは気が引けるかもしれませんが、事前の話し合いはトラブル防止にとても効果的です。親が元気なうちに、財産の内容、遺言書の存在、分割の方針などについて家族全員で共有しておくことで、相続発生後の混乱を防げます。
4. 不動産の対策を講じる
不動産が遺産に含まれる場合は、以下のような事前対策が有効です。
- 生前に売却して現金化しておく
- 特定の相続人に不動産を残す代わりに、他の相続人には生命保険金を用意する(代償分割の準備)
- 共有名義にしない方針を遺言書で明記しておく
不動産の共有名義は、将来の売却や管理で全員の同意が必要になり、トラブルの温床になります。遺産分割で不動産を分ける場合は、できる限り単独名義にするか、売却して現金で分けることをおすすめします。
5. 生命保険を活用する
生命保険金は原則として相続財産に含まれず、受取人が単独で受け取れます。この特性を活かして、不動産を相続する兄弟以外を生命保険の受取人に指定しておけば、実質的に公平な分配が可能になります。

トラブルになってしまった場合の解決策
事前準備をしていなかった場合や、準備していてもトラブルが起きた場合の対処法を紹介します。
1. 遺産分割協議をやり直す
まずは兄弟全員で話し合い(遺産分割協議)を行います。全員が合意すれば、法定相続分とは異なる分割も可能です。
2. 遺産分割調停を申し立てる
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停では裁判官と調停委員が間に入り、話し合いによる解決を目指します。費用は収入印紙1,200円+切手代で済むため、経済的な負担は小さいです。
3. 遺産分割審判に移行する
調停でも解決しない場合は、審判手続きに移行し、裁判官が分割方法を決定します。審判の結果には法的な拘束力があるため、これにより最終的な結論が出ます。
4. 弁護士に依頼する
兄弟間の感情的な対立が激しい場合や、遺産の内容が複雑な場合は、弁護士に代理人を依頼するのも有効です。弁護士費用はかかりますが、専門家の交渉力で解決がスムーズに進むケースが多いです。
相続の基本知識を押さえておこう
法定相続分の基本
親が亡くなった場合の法定相続分は以下の通りです。
- 配偶者と子がいる場合:配偶者1/2、子が残り1/2を均等に分割
- 配偶者がいない場合:子が全遺産を均等に分割
- 兄弟のみが相続人の場合(被相続人に子も親もいない場合):兄弟で均等に分割
遺留分とは
遺言書で特定の人に遺産をすべて渡すと書かれていても、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)には「遺留分」という最低限の取り分が保障されています。遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます。
なお、兄弟姉妹には遺留分がありません。つまり、被相続人の兄弟として相続人になる場合、遺言書で「兄弟には一切相続させない」と書かれていれば、それに対して遺留分を主張することはできません。
「子としての兄弟の相続」と「被相続人の兄弟としての相続」は法的な立場が異なります。この記事では主に前者(親の遺産を子である兄弟で分ける場合)について解説しています。
専門家に相談する目安
相続の準備をすべて自分たちだけで進めるのは難しい場合もあります。以下のようなケースでは、早めに専門家に相談することをおすすめします。
- 遺産に不動産が含まれており、分割方法が決まらない
- 兄弟の中に借金を抱えている人がいる
- 前妻・前夫との間に子どもがいる
- 親が認知症を発症しており、遺言書の作成能力が心配
- 相続税がかかりそうな金額の遺産がある
- すでに兄弟間で意見の対立が起きている
相談先としては、弁護士(法的トラブルの解決)、税理士(相続税の計算・申告)、司法書士(不動産の相続登記)、行政書士(遺言書の作成サポート)など、内容に応じて適切な専門家を選びましょう。初回相談が無料の事務所も多いので、まずは気軽に相談してみることが大切です。
相談の前に、相続の基本的な流れをわかりやすく解説した本を1冊読んでおくと、専門家の説明も理解しやすくなります。
よくある質問(Q&A)
Q. 遺言書がある場合でも兄弟で揉めることはありますか?
はい、あります。遺言書の内容に納得できない相続人が「遺留分侵害額請求」を行ったり、遺言書の有効性を争ったりするケースです。ただし、遺言書がない場合に比べると、トラブルに発展する可能性は大幅に低くなります。
Q. 相続放棄をすれば兄弟間のトラブルは避けられますか?
相続放棄をすれば最初から相続人ではなかったことになるため、遺産分割の話し合いに参加する必要はなくなります。ただし、相続放棄は「相続があったことを知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があり、一度放棄すると撤回できません。
Q. 兄弟間で話し合いを始めるのに適切なタイミングはいつですか?
理想的には親が元気なうちに始めるのがベストです。親自身が遺言書を作成する意思を示してくれると、話し合いのきっかけになります。お盆やお正月など家族が集まるタイミングで、終活やエンディングノートの話題を自然に切り出してみるのもよいでしょう。
Q. 親が再婚している場合、相続はどうなりますか?
親が再婚している場合、現在の配偶者(再婚相手)は法定相続人になります。また、再婚相手の連れ子は、養子縁組をしていなければ相続権がありません。一方、前妻・前夫との間の子どもは養子縁組の有無に関わらず相続権を持ちます。関係者が増えるほど話し合いが複雑になるため、遺言書の作成が特に重要です。

相続の準備を兄弟で進めるなかで、お墓をどうするかが話題になることもあります。お墓を新しく建てる、建て替えることを考え始めたら、複数の石材店の見積もりを無料で比べられる墓石ナビという選択肢もあります。民営霊園は対象外とされているため、詳しい条件は公式サイトで確認できます。

まとめ
兄弟間の相続トラブルは、遺産の額に関わらず誰にでも起こり得ます。遺言書の作成、財産目録の整理、家族での事前の話し合い、不動産対策、生命保険の活用。これらの事前準備を行うことで、トラブルのリスクを大幅に減らすことができます。
万が一トラブルになった場合は、遺産分割調停や弁護士への相談といった選択肢もあります。大切なのは、「うちは大丈夫」と過信せず、親が元気なうちから少しずつ準備を始めることです。
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参考リンク:ベリーベスト法律事務所|兄弟間でよくある相続トラブル、税理士法人チェスター|兄弟の遺産相続、リーガルプロ|遺産相続でよくある兄弟トラブル


